
かつて織物の街として栄えていた地区、東京都八王子市。
現在も織物、生地、染め物など繊維に関する工場が数多く存在します。

今回はその中でも【布】という作品を日々生み出している「奥田染工場」の4代目、
奥田博伸さんにお話しを聞くことができました。
奥田染工場は「手捺染(別名:シルクスクリーン)」を中心とした染物工場です。
ここでは主に 染料場 → 板場 → 蒸し場 → 水洗場 と分かれた作業場の中で、ひとつひとつ手作業にて布が製作されています。
手捺染とは、布に柄をプリントするための技法のことで、日本の伝統的な工芸である型染や琉球(沖縄)の紅型などが起源とされているそうです。


ここはプリント用の色を作成している「染料場」。
顔料や染料と呼ばれているインクを混ぜ合わせ、色のサンプルが作られています。

布の素材によっても染め上がりが全く異なるそうで、様々な色の配合を試し、
時間をかけてデザイナーが描いている布のイメージに近い色を作成しているそうです。

捺染台(布を刷る台のこと)が置かれた「板場」です。
この捺染台に布をしっかりと貼りつけさせ、乾かすために台を温める蒸気が使用されており、
板場の中は少し蒸し暑く「シュー」という音が鳴り響いています。

こちらが布のデザイン(柄)を写し取った「版」。
製版機という機械を使って作成されており、柄に光を当て、光が当たったところが固まり、
光が当たらなかったところが固まらず、それにより柄が形成されていくというもの。
この版を捺染台に張られた布の上に置き、インクをのせ、人の手によって刷っていきます。

(捺染台を温めている蒸気が板場の外に出ています)
刷り終わった布は「蒸し場」に移動させ、蒸し器に入れてプリントした色を定着させます。染料を用いた布の場合は蒸し器に、顔料を用いた布の場合は乾燥器にと、インクにより定着させる方法は異なるのだそう。
最後は「水洗場」にて人の手で布を洗い、布についた余計な染料を落とし、一連の作業が終了します。
ここまでの作業ほとんどが手作業で行われており、かなりの時間と手間をかけて丁寧に布が生み出されていることがわかります。

次に、今まで奥田染工場で製作された作品を見せていただきました。
茶色のグラデーションが独特な雰囲気を醸し出すこちらは鉄サビを用いた「錆染め」という技法で染められた布。


デニム生地のような風合いのこちらは、造船場で余った鉄粉で染められたものだそう。
鉄粉で染められた布を使用したトートバッグや小物入れはとても人気なんだとか。
実際にほんのりと鉄の香りがします!

上から「草木染め」「藍染め」「箔プリント」。
優しい色合いのものからクールなものまで、染めの技法により様々な表現を見ることができます。


また、奥田染工場では浴衣ブランド「phro-flo」の運営も行っており、
台湾での展示、販売会も実施した経歴があるそうです。
先ほどの錆び染め等のイメージとは打って変わって、カラフルでポップな可愛らしい印象です。

布の色ムラを出すために、あえて刷毛(ブラシ)で色を塗ったという作品も。
このように奥田染工場では色から染めに至るまで、機械ではなく手作業だからこその技術が多く存在します。

工場の壁には『製品は買う身になって作りましょう』と書かれた板が。
「ファッションの世界は一つの服ができるまで、糸を作る人と織る人、染める人、縫製する人、販売する人、と沢山の人が関わっていて、そのうちのどれかひとつでも欠けると成り立たない。一人では作れない世界。」
とお話ししてくださった奥田さん。
布を生み出す職人だけでなく、デザイナーも実際に物作りが行われている現場に触れ、共同で協力して作り上げていくことを大切にしている奥田さんの姿勢にはモノ作りへの深い愛を感じました。
普段何気なく着ている服や製品のことについて、そのルーツを辿ることで見えてくる光景があるかもしれません。
奥田染工場
東京都八王子市中野上町1-12-14
http://www.okudaprint.com/
phro-flo
http://phro-flo.com/
Writer: muk